終戦のローレライ読了

終戦のローレライ(4) (講談社文庫)

終戦のローレライ(4) (講談社文庫)

4冊セットのボリュームは伊達じゃなかった。4日かかって読了。
おもしろかったですー。


「上質のエンターテイメント」っていうのかな?
お話に没入させ、広く浅い知識を与え、手に汗を握らせ、涙を流させ、今の自分を考えさせる。
それを全部満たしてる感じ。
読もうかな、どっしよっかな、と思ってる人は、読んで損はないと思います。
(ただ、リアリティを要求する方は、やめといた方がいいです。
 SFかファンタジーに近いから)


全体的に読みやすかった。
陰惨なシーンも多少はありますが、そこはネチネチ書き込まず、さらっと流す作家さんらしいので、読んでるほうにはありがたかった。


なんとなく、物語全般についても同じことが言えて。
重点的に描かれるのは、あくまで精神。肉体ではないのね。
人物の描写にしても、外見(肉体)についての説明は少なめで、
「どういう考え方をする人か」が、一番重点を置いて書かれている気がしました。
「痛み、苦痛」についても、肉体的なものより、精神的なものをメインにしてて。
なんていうのかな、殴られるシーンを読んでも、あまり「いったーい!」とは感じないが、
酷薄な敵を相手にし、追い詰められるシーンでは、底冷えがするような怖さを感じる小説というか。


そういう手法ゆえでしょうか?
「人は飢えれば餓鬼道に堕ちる」のくだりは、描かれる状況のすさまじさに比べ、
私の心には、さほど響きませんでした。
重要なシーンだし、言いたいことは理解できるのだけれど・・。
肉体が極限状態に → 精神も一線を越えてしまう という構図だから、
肉体の悲鳴が聞こえない文章だと、あまり説得力がなかったのかも・・・?
作者も私も、所詮は「飢えたことのない世代」だからなんでしょうか。
大岡昇平の「野火」を読んだ時のような、恐怖は覚えませんでした。


でも多分、これが「戦後世代なりのアプローチ」なんだろうなと思う。
肉体の痛みからではなく、精神の痛みから、「戦争」という状況を理解しようとする。
大事なのは、「自分には関係のない、遠い昔の話」と聞き流すのではなく、
「これは自分にも起こりうる話、関係のある話、
もし自分なら、その状況でどう思うか?」と考えるきっかけを、手にすることだと思うから。