夕凪の街桜の国 を読んで

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)


買ったまま、しばらく読んでいなくて
この週末に読みました。


やわらかい絵でかかれる、
広島での被爆10年後、
そして60年ほどあとの、東京でのお話。


子供の頃に、戦争児童文学を、よく読みましたが
原爆の話の場合、たいていは
「平穏な暑い夏の朝が、一転、地獄絵図になる、その悲惨さ」という
アプローチだったと思います。
そして被爆現場の悲惨さが、これでもかとばかりに、描かれる。
そこで一番強調されているのは「肉体の痛み」のように、私は感じていました。
もちろん、心も痛むのだけれど、
それは「肉体の痛み」が主で、「それに伴う心の痛み」という印象。


「夕凪の街」は、そういうアプローチを取りません。
原爆が落とされて10年後の広島で、会社に勤める女性「智実」が主人公です。
職場での彼女に、原爆の影は見えません。
しかし、父と姉と妹を、原爆で亡くした彼女が住むのは、
原爆で家を失った人たちが集う「原爆スラム」的な地区。


平穏な日常を送っているように見える彼女ですが、
「誰かに「死ねばいい」と思われた悲しみ」と、
「あの日、多くの人を見捨てた罪悪感」に、苛まれ続けています。

しあわせだと思うたび
美しいとおもうたび


愛しかった都市のすべてを
人のすべてを思い出し


すべて失った日に
引きずり戻される


おまえの住む世界はここではないと
誰かの声がする


(25ページより引用)


いろいろな痛みを
「わたしが忘れてしまえばすむことだった」と、
自分の中だけで、処理してしまおうと、努力する彼女。


そこに描かれているのは、「肉体の痛み」よりも、「心の痛み」であると
感じました。
『生き残った』イコール『助かった』ではない、視点。


残酷な運命が、心に突き刺さるラストですが、続編の「桜の国」によって
けして読後感は悪くありません。
思いもしなかった視点を見せてもらえる、
読んだ後、深く何かが残る、作品だと思いました。